第5回 職業としてのベンチャーキャピタリスト

ベンチャーキャピタリストが果たすべき職務とは何だろうか。

 

その問いに対する今現在の到達点を、考察し、記録するには今日という日は相応しい。臆さず書いてみたい。

 

会社員の3年間をあわせ、この仕事に就いて17年以上となった。あっという間であり、まだまだでもある。

 

ベンチャーキャピタリストとは何であるのか、その問いに、当のベンチャーキャピタリスト自身が明確な答えを持っていないのではないか、あるいは、全く間違った職業意識で仕事をしているのではないか、もしくは、そもそも何も考えていないのかもしれない、そのように思うことがしばしばある。

 

かく言う私自身が、明確な答えや正しい職業意識を有しているのか、仮にあったとして、それが常に実践できているかと問えば、甚だ心もとない。それでも、現時点の到達点を示すことからしか未来を語ることはできない。

 

ベンチャーキャピタリストの重要な職務は、まず第一に起業家の個性(思想信条)を誰よりも早く見抜き、理解し、評価し、他の投資会社や投資家との同時払い込みでなく単独であっても(起業支援の観点においては単独であることに、より意味がある)果敢に投資し、次に、最長で10年(2年延長の場合には12年)間、成長を支援※1することである。

 

※1成長を支援するとは

1.取締役会に出席し、または社外取締役として発言をする。《日経新聞「社外取締役がCEOをボコボコに」孫氏の企業統治

2.紹介をする。紹介の高い技術がある。《ベンチャー企業の生成と発展 第4回成長支援①「誰かを誰かに紹介する」

3.資金調達をともに行う。

4.上場時に、または相対で保有株式を売却する。

 

つまり、本来ベンチャーキャピタリストは、投資先企業を上回る高い経営力を有し、それを提供していると言える。投資先以上の経営力がなければ、高次の経営課題に都度適切な助言をすることはできまい。

 

また、その結果、ファンドの出資者に相応のリターン※2をお返しすることである。

 

※2相応のリターンとは

・10億円のファンドを5倍の50億円にすると、出資者の持分は4倍の36億円、VCの収益は成功報酬8億円、管理報酬2億円、持分4億円の合計14億円。

・100億円のファンドを5倍の500億円にすると、出資者の持分は4倍の360億円、VCの収益は成功報酬80億円、管理報酬20億円、持分40億円の合計140億円。

・2,000億円のファンドを5倍の1兆円にすると出資者の持分は4倍の7,200億円、VCの収益は成功報酬1,600億円、管理報酬400億円、持分800億円の合計2,800億円。

※GPの持分は10%とする。管理報酬は総額20%とする。

 

私でいえば、3年間の会社員時代を含め、投資倍率で2倍を下回ったことは一度もない。最大値は3.5〜4倍である。※2の試算と比較しても、これが大した成績でないことは言うまでもないが、事実として国内に、そのような成績の個人、またはベンチャー専門の投資会社は非常に少ない(または殆どない)。

 

重要な点は、これが大した成績でなかったとしても、一定のリターンを、反復継続的に為し得るに足る方法論を有しているのか、そしてそれが、規模を拡大しても揺るがないのかということである。

 

業界として十分に高いレベルの開示がなされてきた訳でないため、各社の運用成績は当然に不明である。しかし、もし各社が「相応のリターン」を上げてきたなら、(そのようなものが存在するのだとして)「今のベンチャーキャピタル業界」※3のありようではないはずである。つまり、拡大していないはずはないのである。また、十分に高いレベルの開示がなされないのは、十分に高いレベルの成績ではない可能性が高いからだと言えるだろう。

 

※3 今のベンチャーキャピタル業界とは

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ベンチャーキャピタリストはオリンピック選手と同じように、世界共通の指標をもとに堂々と競い、切磋琢磨を重ね、互いに世界の頂点を目指すべきである。

 

そうしてベンチャーキャピタリストは、初めの10年と同じように、次の10年も、その次の10年も、起業家の個性(思想信条)を誰よりも早く見抜き、理解し、評価し、単独であっても果敢に投資し、成長を支援し続ける。これこそが、ベンチャーキャピタリストの職務そのものであり、30年、いや50年、この営為を続ける覚悟が問われているのである。たまたま当たった、旬の一時期に好成績であったという人は、この「業界」にも幾人かはいたのであって、しかしそれは、ベンチャーキャピタリストの職務と本質的に関係はない。

 

そして、目の前の起業家、ベンチャー企業の成長を支援することは勿論として、ベンチャーキャピタリストはその繰り返しを通じて、人類の未来、社会の進歩※4に貢献しているのであり、必ずしも、目の前の起業家に気に入られるかどうかによって真価が問われる職業ではない。

 

いわんや、出資者の顔色をうかがう仕事でもない(上述の通り、相応のリターンをお返しすることが職務であることは言うまでもない)。

 

※4人類の未来、社会の進歩に貢献するとは

ここで、ベンチャーキャピタリストが「人類の未来、社会の進歩」についての見識を持たずして、投資先を選ぶことは可能なのかという問いが生まれる。それは不可能であろう。それでは価値判断(投資判断)ができない。つまり、起業家の理念(思想信条)とは、否が応でも、ベンチャーキャピタリスト自身の理念(思想信条)であるということになる。経営力同様、理念において思想信条において、ベンチャーキャピタリストは起業家を超えていなければならない。

 

 

例えば食料問題について、エネルギー政策について、地域について、格差について、人権について、技術やサービスそのものについて、国際政治について、平和について、人類と社会についてのあらゆる領域で、ベンチャーキャピタリストが学び、高い視点を持たなければ、正しい投資はなされず、その結果正しい企業は生まれず、経済の成長は無く、「人類の未来、社会の進歩」は危機にさらされるであろう。もし現在、ベンチャーファンドのリターンがさしてないのであれば、すでにそのような状態にあると言わざるを得ない。

本稿続く。

本稿は2017年7月24日に新丸ビル(インディペンデンツクラブ)で開催された実践型ベンチャーキャピタリスト養成プログラム第3期最終回・第4期5期初回講義をもとに加筆修正した。
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山本亮二郎
http://www.pehr.jp/

 

投資先の上場実績
2015年 9月 ピクスタ株式会社 [東証マザーズ]
2015年 3月 株式会社ショーケース・ティービー [東証マザーズ] (取得価額に対して22.3倍)
2015年 2月 株式会社ALBERT [東証マザーズ] (取得価額に対して15.3倍)
2012年 9月 株式会社メディアフラッグ [東証マザーズ] (取得価額に対して2.5倍)
2006年 6月 夢の街創造委員会株式会社 [大証ヘラクレス(現JASDAQ)]
2006年 4月 株式会社ハブ(投資先のグループ企業)[大証ヘラクレス(現JASDAQ)]
2004年10月 21LADY株式会社 [名証 セントレックス]
2001年10月 フューチャーベンチャーキャピタル株式会社 [ナスダック・ジャパン(現JASDAQ)] ※
2000年 4月 株式会社インテリジェンス [JASDAQ] ※
※の2社は社員株主としての上場です。

上記のほか今後1~2年のうちに、スタートアップで投資した会社を中心に2~3社が上場する見通しである。また、約2倍~74倍での9度の売却実績がある(2017年1月31日現在)。

 

《アーカイブ》

第1回『起業前夜-プロレスラー三沢光晴の死-』2009. 7. 17

第2回『会社設立-ソニー創業と井深大の精神に学ぶ-』(前編)2009.8.24 

第2回『会社設立-ソニー創業と井深大の精神に学ぶ-』(後編)2009.9. 7

第3回 創業期の資金調達-銀行等金融機関からの借入と第三者割当増資(前編)2009.10. 2

第3回 創業期の資金調達-銀行等金融機関からの借入と第三者割当増資(中編)2009.11. 6

第3回 創業期の資金調達-銀行等金融機関からの借入と第三者割当増資(後編)2009.11. 6

第4回 成長支援①「誰かを誰かに紹介する」2017.5. 25