第6回 起業における「思想信条」とは何か。

「第19回世界経営者会議」に11月7日、8日の2日間参加した。

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初日最後のスピーカーとして登壇したファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、血色が良く、気迫と自信に満ち溢れていることは会場の誰にも明らかであった。タイトルは「服の民主主義」。副題は〜私たちは何がユニークなのか〜である。少し長くなるが紹介したい。

 

 

 

柳井氏はある頃から「コンビニの弁当と服と、どこが違うのか」と考えるようになったという。コンビニ弁当は誰もが手にすることができる日常的なものの象徴であり、それでいて品質が高く、きっちり並べられている。「服は弁当と同じである」「弁当のような服を作ろう」という考えを、当時アパレル業界で理解できる人はいなかった。なぜなら人は、服には個性があると考えるから。しかし、「服に個性があるのではなく、着る人に個性がある」のである。

 

服は時代とともに変化してきた。「衣食住(を満たすための服)」⇨「(工場や軍服など)階級の服」⇨「社交ビジネスの服」⇨「カジュアルウエア」。その先に、ユニクロは「部品としての服」を目指し、「ライフウエア」という新たな概念を創造した。

 

「人種、国籍、年齢、職業、性別を超えたあらゆる人々のための」「ベーシックで高品質で今日性がある服は、世界中にユニクロしかない」。そして、「服の民主主義とは一種の革命である」。

 

服の民主主義とは、「一部の人のための服を日常着の世界に解き放つことである」。階層意識の薄い日本社会は、誰にとっても良い服という機能と美意識、つまり超合理性を育む土壌があった。そもそも「洋服」である「服」を、アジア発で世界に問うことは世界初の出来事である。「アジア発で洋服の常識を覆す」。

 

そして、今では7ブランドで3,300店を擁し、連結売上高1.86兆円、営業利益1,764億円を叩き出し、すでに世界中に展開しているにも関わらず、「世界最高水準の生産力を活かし、これから本格的に世界に打ってでる」のだという。これから始まるのだと。良いアイデア、良い取り組みを世界中で活用し、グローバルで勝つ。アパレルにとって非常に重要なのはパリ、ロンドン、ニューヨーク。「世界70億人のマーケットとは、700兆円の市場ということである」。

 

その過程で、従来のSPA(製造小売業)は顧客ニーズを即時製品化する「情報製造小売業」へと進化し、いずれ「(アパレル)業界」は消えてなくなる。ユニクロはこれまでも、サプライヤーとは対等かつ運命共同体であるとの考えをもち、取り引きではなく取り組みであるとしてきた。20年以上の付き合いも多数ある。これからは、異業種、あらゆる業界とともに「未来をつくる企業のプラットフォームになる」。つまり、「新しい産業を創る」。

 

その時に大切なのは「真 善 美」。全社員のその判断基準をもとに経営する。

 

「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」。
ビジネスは社会を豊かにするためにあり、より良い世界を実現するために、ビジネスはある。

 

以上

 

 

40分ほどの講演で、「革命」という言葉を2度使った。「民主主義」という政治体制上または人類史上の大きな用語で自らの事業を語る実業家は初めて見た。他にも、「部品」「人種」「日常」「今日性」「解き放つ」「階級」「階層意識」「機能」「美意識」「超合理性」「世界に問う」「真善美」「常識を覆す」「常識を変え」「世界を変え」「より良い世界」など、哲学的、政治的、かつ極めて挑戦的な言葉使いが講演全体を覆っている。

 

柳井氏は日常的に、このようにして思考を研ぎ澄ませていることが窺える。そして、その言葉、思想がまた、彼を奮い立たせ、組織を鼓舞し、製品に宿る。戦いを挑む姿に、聴衆は魅せられもするのであろう。

 

ベンチャーの起業について語る時、私は最近「思想信条」という言葉を使うようにしている。以前なら、理念や目的、あるいは起業家の個性と言った。「個性」という語の響きは良い。しかし、「理念」「企業理念」という言葉では、伝えたいことの内容を言い表すことができない。小さく表面的で薄っぺらいと感じるようになり、やや大げさだと思われるかもしれないが、「思想信条」と言うようになった。

 

だが、思想信条だとして、どのような思想信条であるのかということについては語らずにきた。自信もなかった。誤解や中傷を恐れたかもしれない。しかし今日、この巨大な事業家の講演を聞き、自分の疑いとその答えが間違いないと確信した。

 

私が抱いてきた疑いとは、日本企業はなぜ世界企業にならないのか、というものである。18年近く投資業務にあたり、全力で働いてきたが、投資先にその片鱗(ユニクロのような世界企業の片鱗)を感じることはない。私自信の能力不足は大きく、そもそも当社自身、現時点で世界を語れるスケールではない。しかし、平均して仮に年間100社の新興市場へのIPOがあったとすれば、18年で1,800社。その中に1社でも世界企業と言い得る会社があるだろうか。皆無である。

 

その原因として、日本には起業家が少ない、起業家精神が足りない、そうではなくベンチャーキャピタルの資金が欧米の何十分の一である、1社あたりの投資額が少ない、英語でのサービス開発に課題がある、そもそもの民族性では、などなど実しやかに語られてきた。しかし、私が抱いてきた答えは違う。そうではなく、起業家の思想が、思考が、言葉が、感受性が、どうしようもなく保守なのだ。どの起業家も、あまりに保守的なのである。日本のベンチャーが世界企業になれない根本理由はそこにあるのではないか。

 

起業家が起業家たる所以、ベンチャーがベンチャーたる所以は、言うまでもなく革新であろう。日々革新に取り組んでいるはずだ。一方で、今を追認した方が手っ取り早く、ビジネスは一見運びやすいとも言える。規制の先を読むというスタイルもあるだろう。無駄な葛藤は無用、むしろ事業の妨げでしかないかもしれない。自分の答えに自信を持てなかった理由もそこにある。実際に商才があれば、時流に乗り、現実を焼き直し、数百億円か数千億円ならやれるだろう。それだけでも立派だと言うこともできる。

 

しかし、そのやり方では、世界企業にはなれない。この18年がそれを証明している。そして今、柳井氏の講演「服の民主主義」を聞いた後では、こう確信せざるを得ない。

 

保守か革新か、支持政党の話ではない。起業家がどのように生き、何を考え、誰のために働くのかということだ。ここがこのまま、世界と通じているのかどうかということである。海外進出することが世界企業なのではない。思想の中に世界があるのである。起業家に、社会や世界、人類や人々に寄せる思想信条がない、または圧倒的に不足しているのだ、と。

 

「服の民主主義」講演で柳井氏が繰り返し問うたもう一つのことは、「そのためには、私たちは何者なのかを知り、明確に伝えることが非常に大事である」ということである。私たちの思想はなぜかくも保守なのか。まずそのことを自覚し、問い、鍛え、思想の戦いを挑むことなしに、日本のベンチャーが世界企業になることは今後もないだろう。

 

もとより、日本人に世界企業が作れないのではない。今の日本の起業家に、世界企業としての思想信条がないだけである。この国を代表する世界企業を築いた人たちの言葉をいくつか紹介して、終えたい。思想信条とは、真の革新とは、このようなものなのではないか。

 

🔶「(終戦後すぐに)長野県の須坂から東京に戻ってみると、当時、私の住んでいたのは東北沢であったが、周囲はすべて焼け落ち、そのなかに私の家だけが立派に残っていた。わが家の前に立ち、焼け野原を見回しながら、これからなにをしようかと思ったものであった」。

『「ソニー」創造への旅』(井深大著、グラフ社、2003年)より

この翌年、1946年1月に井深氏は有名な設立趣意書を起こし、ソニーの前身である「東京通信工業株式会社」を設立した。38歳の時である。町中が焼け落ち、おびただしい数の人が死に、国が壊滅するほどの風景を見ながら、井深氏はこれを書き、起業した。

https://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/prospectus.html

 

 

🔶「(井深は)いわゆる産業用の電気機械には興味を示さず、民生用の電気製品、つまり、世の中のすべての人々が使えるものを作り出すことにのみエネルギーを費やした。自分が発明したものが、あらゆる人たちの家庭生活を豊かにすることが願いだった」。

『ソニーが挑んだ復讐戦』(郡山史郎著、プラネット出版、2001年)より

 

 

🔶「産業人の使命は貧困の克服にある。社会全体を貧しさから救って、富をもたらすことにある」「企業人が目指すべきは、あらゆる製品を水のように無尽蔵に安く生産することである。これが実現されれば、地上から貧困は撲滅される」。

『幸之助論』(ジョン・P・コッター著、ダイヤモンド社、2008年)より

1932年、大阪の中央電気倶楽部講堂で186人の社員と重役を前に語ったとされる。松下幸之助氏37歳。

 

 

🔶「世界への進出」「世界一のカジュアルチェーンになる」「年間の売上が1兆円だって夢じゃない」

『柳井正 希望を持とう』(柳井正著、朝日選書、2011年)より

宇部で2店の「町の紳士服屋の主人」だった20代半ば、ファーストリテイリングの前身「小郡商事」時代に柳井氏が考えていたこと。

 

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PE&HR株式会社  代表取締役 山本亮二郎

http://www.pehr.jp

 

《参考》

第5回 職業としてのベンチャーキャピタリスト