第4回 成長支援①「誰かを誰かに紹介する」

ベンチャーキャピタリストが行う投資先の成長支援について、何回かに分けて記したい。初回は「紹介」についてである。

 

投資先の成長支援における、ベンチャーキャピタリストが担う重要な役割の一つとして「紹介する」という行為がある。紹介するとはつまり、誰かと誰かを引き合わせる、ということである。二人のうちの一方は、この場合投資先企業であり、その殆どは社長である。もう一方の誰かとは、新たに迎え入れたいと考えている投資家、銀行、大口の販売候補先、仕入れ先、取締役や監査役、重要なエンジニア、弁護士や会計士かもしれない。

 

紹介するという行為は、何もベンチャーキャピタリストや投資先、起業家にとってのみ重要なことではない。社交的であるとそうでないとに関わらず、様々な場面で、人は誰かと出会い、時に誰かを紹介され、あるいは誰かを紹介し、生きて来たはずだ。とても身近な行為である。それだけに、深く考察することは少ないのかもしれない。

 

なお、経営に限らず、多くの場面で出会いの重要性についても語られる。偶然起きたかのように受け止めている「出会い」という事象も、よく分解し思い起こし眺めてみると、その多くは、直接間接を問わず「紹介」がもたらした結果であることが分かる。やや説明が長くなるため、なぜ出会いも紹介の一形態であるのかということの考察は省略し、ここでは出会いも紹介の一種として取り扱いたいと思う。

 

さて、確かに紹介という行為は、多くの人にとって身近なものであるかもしれない。しかし、だからと言ってそれが簡単だということではない。むしろ、非常に難しい。実は、極めて高い技術や誠実さが要求される行為であり、その巧拙こそが、もしかしたら人生のなにがしかを決定しているのではないか、あるいは、企業の成長発展における程度や速度に影響を与えているのではないか、とすら思える。

にも関わらず、それほど重要な紹介という行為や方法が、前述の通り十分に考察されているとは思えないため、本稿ではまず、1)ベンチャーキャピタリストが行う投資先企業の成長支援業務をいくつか記述することで、そのインパクトを見て頂きたい。次いで、2)その方法、あるいは礼儀作法を伝えることで、紹介の精度を高めることをお伝えしたい。最後に、3)そのようにして「紹介」を純粋に考察対象として理解を深めることを通じ、多くの人の人生に何かの気付きを提供できるかもしれないと考える。やや僭越ではあるが、「紹介」を本業、本職にするベンチャーキャピタルという立場であるからこそ書いてみたい。

 

1)さて、それではベンチャーキャピタリストは日常的にどのような紹介を行っているのだろうか。私自身の最近の活動をいくつか記してみよう。

 

● 上場が近付いている投資先(10数年前に初回投資)の社長を、やはり10年以上お世話になっている上場企業の社長にご紹介した。目的は資本業務提携であり1億数千万円の出資が決定した。その他にも直接、間接に紹介したいくつもの提携が新聞発表され、また、デット、エクイティの調達総額は10億円近くに達する見込みである。

● 当社がGPを務める日本初の地域ファンド※1のオフィス開設懇親会に、ファンドLPとあわせ、多数の投資先社長と役員、上場した複数の元投資先社長、同地域の投資候補先、大手銀行元頭取など多くの方が集い、約3時間の交流会で「無数」とも言える紹介が実現した。

● 上場した投資先社長を、その10倍ほどの大きさの上場企業社長に紹介した。その社長と親しいファンドのLPに紹介をお願いして実現した。

● VCプログラム※2の講師として、著名なインキュベーターと、責任者として複数の上場を果たした上場企業役員をお招きし参加者にご紹介した。その後、参加者から多数の投資候補先を紹介された。

● 長年参加してきた会合で昨年お会いした金融機関から、新ファンドに出資を受けた。

● 長年参加してきた別の会合で13年前にお会いした金融機関から、昨年ファンドに4回目の出資を受けた。調達した金額は何億円にもなる。

 

逆に、私自身が紹介を受けることもある。

● 事実上の創業初期に投資し、マザーズに上場した投資先が市場変更し東証1部上場企業となり、その祝賀パーティで主賓として紹介され挨拶をした。

● ファンドLPである銀行の頭取と役員からベンチャー企業を紹介され、上場支援コンサルを進めている。

● 投資先の社長、または役員から、投資候補先の紹介を受ける。投資したその会社が数年後、実際に上場した。

● 海外でも活躍するデザイナーからアジアの著名な起業家を紹介され、日本でランチをし、2週間後に現地の複数都市を案内される。

● ファンドLPである銀行の交流会で隣に座った方から、その業界で日本を代表する大企業の社長を紹介され、休眠している一部事業の買取を検討している。

 

このようにして、いわば毎日のように、誰かを紹介し、誰かを紹介されながら日々せわしなく活動しているため、ベンチャーキャピタリストを紹介のプロと称することもできると思う。何年もの間、たくさんの紹介を繰り返していると、それがうまくいく場合とそうでない場合、良い紹介と悪い紹介があることに気付く。

 

2)その点を記述する上で、もう少し細かく紹介という行為そのものを分解してみたい。

 

「そもそも紹介とは、常に3者間(かそれ以上)での行為である」

このことは意外に忘れがちである。それがなぜ忘れがちであるのか、という点については、「紹介」という行為を考える上で重要なポイントであるが、

 

「紹介とは、(時に)2者間の行為である」

 

と錯覚されてしまっているのだ。結論を先取りすれば、失敗する紹介、悪い紹介の多くが、この形態を取っていることがわかる。具体的には、3者のうち紹介者が置き去りにされるのである。

 

さて、VCによる紹介の「3者」とは通常以下であろう。

A.「紹介者(=VC)」

B.「被紹介者(=投資先の社長)」

C.「被紹介者(=投資家、販売候補、経営陣、エンジニアetc)

である。

 

さらによく観察してみると、確かにAは、BとCを引き合わせようとしているのだが、少なくないケースにおいて、BとCは対等な関係にあるのではなく、Aは、BをCに紹介しようとするのであり、あるいはCをBに紹介したいのである。1)のケースを見ても殆どがこのようになっている。つまり、これが紹介の基本形と言える。

にも関わらず、なぜこの基本形は時に、またはしばしば崩れるのだろうか。つまり、紹介者は忘れ去られてしまうのだろうか。

 

その理由は、シンプルに、被紹介者が紹介者に、紹介の礼や報告をしないからである。ベンチャーキャピタリストの紹介における上の3者で具体的に言えば、Bの投資先社長の中に、本当に見事に、毎回のように、礼や、その後の共有などを全くしない人が現れる。

 

その場合、VCとCとの関係が、正しく、あるいは効果的にBにつながらないために、その紹介がうまくいかない場合が多いのだろう。また、AもCも、礼を欠いているそのようなBの態度から、結果的にBへの評価を下げることになるのであろう。当初は、一見うまく運んだようであったとしても、長い時間の中でその関係は必ず破綻していくのが人の世の理である。

 

従って、Bに成長はない。

 

とはいえ、紹介者に延々と報告をし続けなければならないということではない。しかし、礼や報告をするかしないか、するならいつどのようにすべきであるのか、ここに、紹介の成否を決定し得る厳然とした差異がある。

 

かく言う私も最近一つ失敗をした。失礼であったかもしれないと恥じたことがある。また、このところ頻繁に紹介したある人物を見ていて、あまりにも基本がなっていないことに驚かされたことがある。その理由は、記した通り、紹介が正に2者間で閉じているのである。そして、そのような企業が事業を伸ばすことは絶対にないと言って良い。上場企業ならその株価は見事に振るわないし、未公開ならその業績は一向に冴えない。

そのような姿をみて、時に苦言を呈することもあるとして、良い大人同士が交わすテーマとしてあまりに残念なものであるし、また、毎回言うのは憚れる内容とも思う。

しかし、ここまで見れば、最早間違いなくと言って良い確信をもって、紹介における態度と企業業績には関連があり、どうにかしてそのことを伝えたいとの思いが、本稿の動機である。

 

3)それではなぜ、そのような非礼、または紹介の不実は起きるのだろうか。私が見てきた経験では、その殆どは「驕り」である。多忙や失念などもあり得るが、繰り返される場合には、間違いなく驕りが見られる。自分は、そのような素晴らしい人を紹介されるに足る人物であると、根本のところで考えているのである。または、どのように逆立ちすれば起こる心理か理解できないとして、紹介者を一段低く見ているのかもしれない。全く間違っている。やや大袈裟に言えば、それらの態度は人の道を外れており、従っていずれ企業業績に如実に表れるのであろう。

 

紹介と少し似た行為に「会食」がある。

 

紹介の不実を繰り返す人物と食事をするとよくわかる。全く同様に礼がないのである。つまり、自分は食事をご馳走になるに足る、もっと言えば、食事をご馳走させてあげているとでも思っているのだろう。そうでなければ金欠によるたかりかもしれない。礼とは、メールでも電話でも何でも良い、食事をしたなら、ご馳走になったのであれば、少なくとも、必ず礼を伝えることは最低限すべきである。

 

私が何度かお会いしたことのある時価総額数兆円超の企業の創業経営者は、20代から、食事をご馳走になったことは一度もないと言う。あったとしても、必ず同等の返礼をし、意識して接待は一切受けないのである。

 

同じことが贈答にも言える。

 

身近にお年寄りがいたら観察してみるとよく分かる。近所で、あるいは生まれ故郷に、お世話になった人に、日常的に、ふとした機会に、何かを送り、感謝を伝え、礼を言い、そして、当たり前のようにお返しがあり、それにまた何かを送る、そんなたわいのないことを延々と続けていることが分かる。

誰にとっても簡単ではない、長く無事に生きていくということを成し遂げている老人の行為と知恵には、学ぶべき点がある。

 

※1 東松山起業家サポートファンド https://goo.gl/qzzCsL
(下写真はファンド交流会の様子)

東松山起業家サポートファンド交流会の様子

※2 第3期実践型ベンチャーキャピタリスト養成プログラム https://goo.gl/hlZ9hg

 

《アーカイブ》

第1回『起業前夜-プロレスラー三沢光晴の死-』2009. 7. 17

第2回『会社設立-ソニー創業と井深大の精神に学ぶ-』(前編)2009.8.24 

第2回『会社設立-ソニー創業と井深大の精神に学ぶ-』(後編)2009.9. 7

第3回 創業期の資金調達-銀行等金融機関からの借入と第三者割当増資(前編)2009.10. 2

第3回 創業期の資金調達-銀行等金融機関からの借入と第三者割当増資(中編)2009.11. 6

第3回 創業期の資金調達-銀行等金融機関からの借入と第三者割当増資(後編)2009.11. 6